「私とHATGO井仙」
Interviews “HATGO ISEN and I”
[私と井仙]
スタッフ編
スタッフとして20年以上、働いている二人に話を聞きました。「HATAGO井仙」が発進して20年。激動の年月には、スタッフ一人ひとりの存在があります。
「駅前旅館が地域を越えた。激動の20年間を振り返って」
ryugon 支配人
小野塚敏之さん

入社したのは井仙が社内で自主ブランディングを始めた頃でした。軸は、現社長が理念として掲げた「三輪」です。お客さま、地域、宿の三者が和を保ちながらともに発展すること。これを知った時は驚きました。「こういう考えを持つオーナーが湯沢にいるんだ」。当時は別のホテルで働いていましたが、この理念に強く共感して井仙に入社しました。
ほどなくしてブランディングは外部のデザイナーらを交えてリスタートしました。これが井仙の第二章でしょう。「地域のショールーム」がキーワードになり、「んまや」でオリジナル商品をつくり始め、内部スタッフが生産現場や生産者を訪れ、リポートして発信しました。
その後、地域とお客さまをつなげるツアーを開始。2012年、観光庁が「着地型旅行」を促進したことに後押しされ、私自身が得意な山菜、キノコ採りをツアーとして企画運営し、コラボ商品をつくってくれる酒蔵へのツアーなども始めました。こうした動きが井仙の第三章になるかと思います。
駅前旅館が猛スピードでグローバル化
第四章は、井仙の名前が南魚沼や新潟県から飛び出した12年ほど前。駅ナカに「むらんごっつぉ」のイタリアン「ムランゴッツォカフェ」を開き、塩沢の道の駅に「たっぽ家」、十日町に「ユキマツリ」。東京品川には10カ月限定でポップアップショップも出しました。
そしてryugonとともに第五章が始まりました。グループの一つとしてリニューアルオープンしたことをきっかけに、井仙はグローバルに。こちらは山の麓、魚沼の田んぼがすぐそばに広がるロケーション。里山という土地を活かしたアクティビティによって、外国の方にも言葉なく地域を伝え、感じてもらうことができるようになりました。土間で魚沼の郷土料理を一緒に作り、伝える土間クッキングなどはその象徴でしょう。ryuognの少し前から社長が「雪国」をキーワードにエリアや県を越えて進めてきた「雪国観光圏」の活動が、ryugonという場所を得て着地し、理念が形になったとも言えると思います。
井仙のカタチを磨き上げてさらなる多様性を
驚くべきは、劇的な変化と展開がたった15~6年の間に行われたこと。ものすごいスピードと濃度です。「ちょっと無理があったかな」と反省もある多店舗展開にしても、ブランディングや売り上げ以上に、挑戦したおかげで食の加工場が整った。すべてが今、そして今後につながっています。
これからの井仙グループも、今に留まることなく、さらなる多様性を持っていくでしょう。課題はあります。カタチがほぼできあがったといえる現在、アクティビティにしろスイーツにしろ、サービスにしろ、磨き上げていかなくてはならない。食については生産ラインを整えて「名物」にしていくべき。基盤が確かになれば、たとえ人が入れ替わっても「井仙」はあり続けられる。この先も、これまでの経験を蓄積に、新しい顔を見せていくはずです。
「未知へのチャレンジを重ね 井仙の「和」が広がってきた」
HATAGO井仙 支配人
梅澤美香さん

物販の仕事を続けたくて「ビューホテルいせん」の土産品コーナーにパートで入ったのが始まりです。入社後、現社長から「喫茶店をやるよ」と。水屋の前身である「杜の水舎」で、コーヒーを淹れることになりました。そして子どもが手を離れ始めた5年後、正社員になりました。
井仙に入って25年。本当にいろんな経験をさせていただきました。HATAGO井仙のオープニングスタッフとして再出発し、「んまや」「水屋」をきっかけに1階の業務をマルチに担当。お客さまのお出迎えやチェックアウト、「んまや」の商品開発や選定、「水屋」での接客。2012年の「たっぽ家」の立ち上げでは料理長の桑名さんと一緒にメニューを考えるところから始め、その後はryugonの立ち上げ。再び、HATAGO井仙に戻ってからは、全体を見つつ昨年からはリトリートツアーを企画して催行。パートで入った頃にはまったく想像していなかったくらい、仕事の内容も幅も広がっています。
旧き良きものと新しさを次世代に
未知へのチャレンジは大変だけれども、やりがいにつながりました。井仙は私にとって、仕事場であり、もう半分は家族のような存在です。その家族が旅館の枠を越えて挑戦を続け、その広がりと同時に「和」が広がっているのが実感として分かる。それもうれしい。
これからは、後世にどう伝えていけばいいかが、私自身のテーマにもなっています。大切にしたいのは、引き続き新しいことに踏み出しつつ、積み重ねた旧きよきものを残していくこと。具体的にはお客さまとの関係です。常連さんがいらっしゃって顔を合わせると、どちらともなく「ただいま」「おかえりなさい」。自然にそう出るのは、井仙とお客さまの関係があってこそ。良きものを守り、引き渡していきたいですね。