昨日28日放送のテレビ東京・カンブリア宮殿「逆襲温泉スペシャル〜日本の宝を磨いて、町を変えろ!~では予想を大きく超える反響をいただきました。番組をご覧になってくださった方々、また事前に紹介してくださった皆様にはこの場をかりて心から御礼を申し上げます。
当初この取材の話を頂いたときは、なぜいまさらHATAGO井仙なの?と半信半疑でしたが、放送直後から多くの皆様からのコメントや書き込みを読んでいると、私も改めて気付かされたこともありましたので、お伝えさせていただきます。番組の中でもお話していますが、旅館は圏外からの観光客を受入れるだけでなく、地元客の娯楽の場でもあります。圏外のお客様からは地元でしか味わえないものを出してほしいとリクエストがあれば、普段家庭では食べられない料理を出してほしいという地元客もいる。すなわち圏外のお客様は宿に「異日常」を求め、地元客は宿に「非日常」を求める。限られた空間と人材の中でまったく志向が異なる2つのニーズを満たそうとしているのが旅館ではないかと思います。
「そんなのどちらかにターゲットを絞らないと駄目だよ」ってコンサルタントの方々は簡単に言います。都会のように大きな商圏を抱えている地域であれば、それは当然のことかもしれませんが、お客様の多くが週末や大型連休でないとお越しいただけない国内旅行の市場規模を考えると、お客様を選んではいられないという状況もあります。
食事と宿泊を分ける泊食分離の必要性は今から20年以上前から言われ続けきたことです。HATAGO井仙が誕生した2005年は多くの旅館がまだ活力もあったため、あえて泊食分離に取り組む必要がなかったと思いますが、今は生き残るためにターゲットを絞ることが必要になってきました。しかしその前提にあるのは、自社の弱みを補うためには、他社と共生できる環境があることが重要です。皮肉にも昔と比べると旅館の経済力やブランド力が落ちてきたからこそ、他社との共生する必要性、そして地域全体でのブランド力の向上が重要な時代になってきたと思います。今年は旅館と地域の力関係が変わるターニングポイントではないかと思いました。
地域のブランド力。それは年度予算で行政が行うキャンペーンやプロモーションでできることではなく、地元に根付いた事業者が年を重ねながらお客様と信頼関係を築いてはじめて達成させるものです。この共感の輪が強く、より大きくなればなるほど地域ブランド力は高まると考えています。10年前から取り組んでいる雪国観光圏はこの地域に未来に対する一つの方向性を示しただけであり、この取組の成果は私を含めこの地域の事業者の活動次第にかかっています。だからこそ私は龍言という宿を引き継ぐ決意をいたしました。
あえて経営者としての自分を章で分けるとするならば、第一章は旅館業へのアンチテーゼが生んだ越後湯澤 HATAGO井仙、第二章は地域ブランドの必要性で誕生した雪国観光圏、そして第三章は今年の7月から龍言を舞台にして始める地域と宿が共生する未来の雪国です。株式会社いせんは15年後の2034年に創業100周年を迎えます。このときまでにはこの三章をまとめた本を書けることを楽しみにしています。
株式会社いせん 代表取締役 井口智裕